原田マハ『キネマの神様』
原田マハ『キネマの神様』文春文庫、2011年
映画館にはキネマの神様が住んでいます。神様は映画好きの人に宿ります。
この小説の登場人物は、全員映画好きで、キネマの神様が降りてきました。
すると、どうなるか?
金儲けは出来ません。なぜなら、神様は物質的なことに関心がないからです。
神様は何に関心がおありなのでしょう?
主人公の歩が転職した先の会社は出版社で、知る人ぞ知る映画雑誌を発行していますが、廃刊寸前に追い込まれています。
この状況を打開しなければなりません。
まずはブログの開設から始まりました。
ブログの管理者は、社長の引きこもり息子です。
映画を見た「ごう」がその映画について記事を書きます。
「ごう」は、ギャンブルと映画が大好きな家族泣かせの男性です。
ごうは、ブログを書くのに生きがいを見いだし、ギャンブルから離れられました。
次に、このブログの英語版を作ることになりました。
訳するのは歩の元職場の人で、アメリカ在住の女性です。
しばらくすると、「ローズ・バッド」と名乗る人から英語版にすごいコメントがつきました。
「親愛なるゴウ
どうやら君たち日本人は、我々アメリカ人の心の奥深くに柔らかく生えている最も敏感で繊細な「父性への憧れ」という綿毛を逆なでするのが趣味らしい。
君の評論「フィールド・オブ・ドリーム」を読んだ。なにやら「キネマの神様」への報告だということだが、それがもし本当の神様なら、君の寝言に耳を傾けたよだれまみれの口を直視できるほど、人間性に富んではいないはずだ。君の評論をまともに受け止めることの出来る神様は、極東の竹林(バンブーウッド)には住んでいても、聖林(ハリウッド)には住んでいない。まず、それを君の肝に銘じさせることから始めよう」
何という挑戦的なコメント。
しかも、この文章はただ者じゃない!
どうする?ごう!
ゴウはこの挑戦を受けて立ちました。
こうして2人はネット上でコメントのやりとりを行っていきました。
ゴウは映画の光の差す部分に目を向け、ローズ・バッドは闇の部分に目を向けます。
2人は交わることはありませんでしたが、お互いに相手に敬意を払っているのが感じられます。
一つの映画を全く別の見方の論評が読めるのです。
あぁ~、何という幸い!
そんな2人が一つの方向を向いた映画があります。
それは「硫黄島からの手紙」です。
なぜなら、2人はこの戦争の時に従軍していたからです。
この小説には、いくつもの映画が出てきます。
一番大事な映画は「ニュー・シネマ・パラダイス」なのです。
小説の始めから終わりまで、この映画が根底に流れています。
「ニュー・シネマ・パラダイス」は、低迷を続けていたイタリア映画が復活したと世界に知らせた映画です。
「キネマの神様」に登場する人物は、それぞれが事情を抱えています。
そこから乗り越えて前に進めるようになったのは、映画を愛する人の所に「キネマの神様」が降りてきて、困難を乗り越えて自分の人生を歩めるように、人との出会いを作ってくれているからです。
「ローズ・バッド」は何者かって?
小説に登場する人物は、どのように変わっていったかって?
それはこの小説を読んでください。
映画って、ホントにいいですね!
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