葉室麟『蛍草』
葉室麟『蛍草』双葉文庫、2015年
著者の葉室麟は、1951年北九州市小倉に生まれ、福岡市の地方紙記者を経て50歳で作家活動に入り時代小説を得意としていましたが、2017年12月に66歳で他界するまで単行本は50冊を超えていました。映画「散り椿」の原作者とは気づきませんでした。
表紙の絵は露草と主人公の奈々。帯の上から帯締めをしていると思いましたが、よく見ると前掛けの紐かもしれません。こういう落ち着いた色合いの表紙カバーもいいですね。表紙カバーを取ると、何を意味しているか分かりませんでしたが、人が寝そべって読書している図柄のようです。
蛍草とは露草の俳諧での呼び名です。
江戸時代の武家屋敷に奉公する女中の奈々が主人公のこの小説、読んでいて落ち着いた躍動感があります。露草が出てくる場面では、しんみりとし、主人公が味方の人たちの名前を間違うところでは笑えるし、息が止まるような緊張感もあり、ご主人と奥方、そのお子さんたちとの関わりは深いものがあります。奉公先の家族を守るため、自分の父親の無念を晴らすために懸命に生きた奈々は、最後に自分の幸せをつかみます。その人らしさとは人柄だと思う私は、子供たちに手習いを教えている儒学者・節斎の言葉に共感しましたので引用します。
節斎はこの日、ふたりの手本の字に「心」と書いて見せた。「ひとにとって、大切なものが様々にあるが、ただひとつをあげよと言うならば心であろう。心なき者は、いかに書を読み、武術を鍛えようとも、己の欲望のままに生きるだけだ。心ある者は、書を読むこと少なく、武術に長けずとも、人を敬い、救うことが出来よう」
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